2025/11/19 13:49
森の奥で、ひとつだけぽうっと光る、小さな灯りがありました。

朝露が残る葉っぱよりも小さくて、
息を吹きかければ消えてしまいそうな、とても儚い光。
その光の真ん中から、
ふわふわの毛を揺らしながら顔を出したのが、ミレトくん でした。
ミレトくんは、生まれたばかりのチイモリ。
どのチイモリも、生まれた瞬間は “まだ名前を持っていない” のですが、
ミレトくんも例外ではありません。
でもね、ミレトくんにはひとつだけ、
最初から大切に抱えているものがあります。
それは胸元で光る 守り石 の存在です。
ミレトくんはよく、その守り石を指で “ぽすぽす” と触ります。
それは癖というより、
「だいじょうぶ、ぼくはここにいるよ」
と自分にそっと言ってあげる、おまじないのような仕草。
少し照れ屋で、
ひとの目を見るのがちょっとだけ苦手だけど、
誰かが落ち込んでいるのにはすぐ気づいてしまう優しさがある子です。
冷たい風が吹いても、
ミレトくんのまわりには
ふんわりあたたかい空気がついてまわります。
まるで、春のひだまりがそのまま歩いているかのように。
そんなミレトくんが、いま一番楽しみにしていること。
それは 「名前をもらう瞬間」 です。
チイモリは、誰かに名前をつけてもらったその瞬間、
自分の中の小さな光が “ぱちん” と弾けて、
正式な 守り人(まもりびと) として生まれ変わります。
名を呼んでくれる誰かが現れたら、
その人をそっと守り、
落ち込んだ日に寄り添い、
ひとりの夜に小さな光を届ける存在になるのです。
だから今日もミレトくんは、
森の道をとことこ歩きながら、
胸の石をぽすぽす触って
「きっと、いつか」と微笑んでいます。
この子が“あなたのミレト”になる日が、
どうか優しい光に包まれますように。
